東京高等裁判所 昭和46年(ラ)38号 決定 1971年5月20日
抗告人 小沢恒彦
相手方 青山一郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
しかし当裁判所も抗告人の原審において申立てた原決定添付算書(一)掲記の費用は、東京地方裁判所昭和四四年(モ)第一六二二六号事件の申立費用自体に含まれるものでなく、同事件の費用額確定決定にもとづく強制執行に必要な限度で、その執行費用となり、その執行手続内で取立てるべきものと解する。抗告人は相手方が任意に弁済したときは執行費用として取立てる機会がないと主張するが、債権者がすでに執行すべき債務名義をえて執行に着手すべく準備し、そのために必要な費用として本来執行費用として計上されるべきものを出捐したときにおいては、債務者が弁済すべきものは当該債務名義表示の債権額のみにとどまらず、右の費用をも含むものと解すべきであるから、それによつてなんら右結論を異にしなければならないものではない。けだし、右の時点で債務者が右費用の任意弁済をすればすなわち止む。債務者がこの挙に出ず、たんに債務名義表示の債務額のみを弁済しようとすれば、債権者はこれが受領を拒み、もしくは民法第四九一条にもとづきまず右費用に充当し、その余剰を債務名義表示の債務額の内に充当し、その残額をもつて強制執行をしうることとなるからである。
その他記録を精査しても原決定にはなんら違法の点を発見しないから本件抗告は理由がないものとして棄却すべく、抗告費用の負担について民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 浅沼武 岡本元夫 田畑常彦)
(別紙)
抗告の趣旨
一 原決定を取消す。
二 抗告人が原審で求めた費用額の確定決定を求める。
抗告の理由
一 原決定理由に依れば債務名義が確定し債権を取立てるには総て強制執行に依りこれを取立てその場合に送達証明書、執行文付与申立日当等債権者が出費した必要なりし費用について債務者から取立てるべきであり本件の如き新たな費用額の確定決定は許されないとしているものであるが債務者たる相手方青山一郎が債権者の相手方に対する強制執行着手準備中(執行文付与申立、送達証明願書申請等を指す)に申立人たる債権者に債務を弁済したる場合債権者たる申立人が相手方たる債務者青山一郎に更に強制執行すべきでないことは謂うまでもないことである。この場合債権者は現実に右必要なりし出費費用に対して相手方から取立てが出来得なくなり原決定が指摘するように民事訴訟法第五五四条第一項但書強制執行について必要なりし費用は執行と同時にこれを取立てるべしとの文理に適合しなくなり、こんな場合債権者は右執行準備費用について相手方より取立てを為すべき手段としては本件の如く民事訴訟法第一〇四条に基く外その取立てる手段は全く存在しないのである。何となれば前述の如く相手方が任意に支払つた場合原審が指摘するように強制執行は着手することは出来得ないのである。(右執行文付与申立日当、送達証明申請日当等のみにて強制執行は出来得ないと解する。)
二 依つて原決定は明らかに民事訴訟法第五五四条の解釈を誤つたものといわざるを得ないものであり違法不当なる決定と謂わなくてはならぬものである。思うに抗告人が原審に於いて求めた執行文付与申立、送達証明、確定証明、抗告なきことの証明等は強制執行着手すべき準備費用であるから相手方が現実に債務を支払わない場合は民事訴訟法第五五四条に従つて相手方たる債務者から取立てることが出来得るがその他強制執行に依らず完結したる場合右費用は取立てることが現実に不可能であるものである。いずれにしても原決定が指摘するが如く強制執行に基づいて取立てるべし旨の判断は、法令の解釈を誤つていることはもちろんその時々の事情によつて変るものであり本件の場合も前記の如くの事情に依つて完結したものであることについて原審は何等判断を示して居らない。要するに訴訟費用額確定以前に相手方が申立人たる抗告人に何らかの金員を支払つた場合は何等問題は存在しないのである。いずれにしても原決定について極めて不服であるから本抗告に及ぶものである。